2007年12月25日

M1グランプリ2007

 毎年、M1を見ると今年も終わりだなあと思う。M1は私にとって、街のクリスマス・イルミネーションなんかよりずっと「年の瀬」を感じさせてくれるイベントなのだ。
 今年もじっくりと鑑賞しましたので、以下、感想を述べてみたいと思います。

 あまり話題にならなかったけど、今年のM1のトピックのひとつは、麒麟の予選落ちだろう。麒麟は笑い飯とともに、M1の「顔」だったわけで、いないのはやはりさみしい。
 まあ、田村くんはベストセラーで億単位のカネが転がりこんでいるというし、川島くんは真鍋かをりに番組中でコクられてつき合いはじめているしで、今年の麒麟はツキすぎの感があった。たぶん、審査員もそのへんの斟酌があったのだろう。

 去年も書いたのだけど、私は笑い飯をとくに贔屓にしていて、彼らに優勝して欲しいと思いながら毎年M1を見てきた。今年の顔ぶれを見て、ひょっとするとひょっとするかもしれないぞ、と期待していたのだが、今年の彼らのネタはふるわなかった。正直、これまでのM1ネタでいちばんつまらなかったと思う。
 思うに、2005年の優勝決定戦における「ハッピーバースデー」のネタがうまくいったから、今回のネタもその路線で、ということなんだろう。でも、今回のロボット・ネタはかなりクオリティが落ちた。擬音だけで笑いがとれると思ったら大間違いだよ。ポテンシャルは高いのだから、もうちっと頑張って欲しい。
 本人たちも相当悩んで今回のネタをつくったんだろうなあ、というのは伝わってくるんだけどね。それが伝わってくるようじゃまずいだろう。
 紹介のときの西田くんのコスプレと、3位外に転落したときの二人のリアクションはムチャ笑えたが、そんなもんばっかり面白くてもしょうがない。来年こそは、と期待している。……って、ちゃんと来年も決勝あがってこいよ。心配になってくるな、もう。

 トータルテンボスの健闘は嬉しかった。彼らは着実に成長している。その成長が自分のことのように嬉しかった。ネタも極限までムダが省かれているし、演技もじつに堂々している。私は彼らと出身地が同じなので(3歳までしか住んでないけど)、とくに目をかけて応援してたのである。今年ラストということで、来年見られないのが残念だけど、今後も活躍してほしいコンビである。

 敗者復活から優勝をかっさらったサンドウィッチマンは大したもんだった。完成度も勢いもちがった。ひょっとするとM1は出来レースなんじゃないか、と思う瞬間が過去何度かあったのだけど、彼らはその疑惑を払拭してくれた。オートバックスはあのオッサンふたりを来年のCMに起用せにゃならぬ。どんなCMになるか、今から楽しみだ。

 ネタは思ったとおりイマイチだったけど、個人的に応援していたコンビがもうひとつ。ハリセンボンである。私は女性の芸人をあまり面白いと思ったことがなくて、彼女たちもその範疇を出ないのだけど、毎週「本番で~す!」を見ていたせいで、好きになってしまった(毎週楽しみに見ているのは「やりすぎコージー」で、「本番で~す!」はその後番組だから、流れでなんとなく見てただけなんだけど)。
 出っ歯のはるかちゃんがお気に入りである。ゲテモノ喰いと誤解を受けそうだけど、かわいいと思う。彼女の顔を見るとなぜかほっとする。

 ……とまあ、今年のM1総括はそんな感じでしょうか。イマイチ笑えなかったなあ今年は。それもこれも笑い飯がふるわねえせいだよ。

2007年12月8日

ソクーロフ『太陽』を観る


 ソクーロフの映画『太陽』をようやく見た。
 takebow師匠のブログで紹介されていたときから気になっていたんだけど、なにぶんにも映画館は得意じゃない。見たい見たいと思いつつ、ついつい見そびれてしまった。

 これは見る機会を逸してしまったかな、と思っていたら、しっかりDVDソフトが発売されたし、レンタル店にも話題作として入荷した。むろん、「外国映画だから」ということもあるんだろうが、たぶん昭和天皇が「歴史」になったということも大きいんだろう。

 見ながら、ぼんやりとベルトリッチの『ラストエンペラー』を思い出していた。あれは歴史の波をもろにひっかぶって庭師として人生を終えた皇帝の物語だった。だが、エンペラー・ヒロヒトはついに「ふつうの人」になることはなかった。
 中国の歴代皇帝の中には、皇帝として生まれながらも、「ふつうの人」として人生を終えた人はたくさんいる。しかし、日本の天皇の中にはそんな人はいない。万世一系、なんて眉唾くさいことを言うつもりはないが、皇室というのはやはり唯一無二なのだ。そんなことを今更ながらに思ったりした。

 ソクーロフ監督についてはよく知らないが、生物学者でもあったエンペラー・ヒロヒトの内面を、じつに見事にフィルムに収めていたと思う。ことに、帝都空襲の描き方は見事だった。
 エンペラーは帝都に住んでいながら、帝都の惨状を見てはいないのである。爆撃の音は聞いていても、被害にはあっていない(皇居は爆撃されなかった)。だから、空襲は彼の頭の中にしかないのである。
 ソクーロフはそれを、空を泳ぐ巨大な魚と燃える街のイメージで、見事に描き出していた。あれがリアルなB29の編隊だったなら、映画は一気に安っぽくなってしまっただろう。限られた予算でも、美しい映画はつくれるのだ。大いに感動させられた。

 エンペラーを演じたイッセー尾形は、一世一代の名演をしている。たぶん、あれほどまでにエンペラーその人に肉迫することができる俳優は、(さまざまな制約のせいもあって)二度と現れないだろう。彼は得意の形態模写を駆使して、エンペラーの苦悩も不幸も神々しさ(と、言っていいと思う)も、みごとに表現していた。
 エンペラーも草葉の陰でお喜びになっているのではないか。あれほどの表現力を持つ俳優は、世界に二人といるまい。まさしく日本の宝である。

 エンペラー・ヒロヒトには個人的に興味があって、いろいろ本を読んだりしたこともある。それゆえ、なのかもしれないが、くりかえし見たくなるような、本当にいい映画だったと思う。


ソクーロフ『太陽』インタビュー
http://www.cinematopics.com/cinema/topics/topics.php?number=877
http://www.sbbit.jp/article/art.asp?newsid=2062