2007年1月12日

Since You've been Gone


 昨年末にジェームス・ブラウンが亡くなった。
 ニュースを聞いて驚きはしたけれど、いまだに現実感がもてないでいる。明日にでも次の来日公演の日程が発表されそうな気がするのだ。こういうと冷たいようだけれど、外タレの死なんて、そんなもんなのかもしれない。

 現実感が持てない理由はもうひとつある。昨年の3月、私はJBの芸能生活50周年を記念する来日公演を目にしているのだ。

 JBはとにかく、とても元気だった。70歳を越える病み上がりの老人(彼は一昨年、ガンの手術をしたばかりだった)とはとても思えないほど、パワーがあった。
「JBが死ぬ前に、一度見ておこう」というような消極的な理由から行ったコンサートだったから、ぜんぜん期待していなかったのだけれど、凄いパフォーマンスを見せつけられた。文字どおり、度肝を抜かれたのである。
 そのコンサート鑑賞記を、私は下記に記している。

JB最後の日本公演レポート「生ける伝説を見た」
http://ameblo.jp/goatsheadsoup/entry-10009813729.html

 このコンサートを見た後、私は確信をもったのである。JBはあと二、三回は来日できるだろう、と。この爺さんは殺しても死なねえ。そう思ったのだ。

 でも、どうやらそういうことでもなかったらしい。JB自身は、「もう日本には来られない」と語っていたそうなのだ。JBが亡くなってしばらくして、そういう情報が入ってきた。

 上のコンサート・レポートにも書いているけれど、JBはこの最後の来日公演において、ショーの中盤、ステージ上に黒いドレスを着た翻訳者を呼び出して、自分の言葉を同時通訳させている。それは、こんな言葉だった。

「今、この時間にも、戦争でたくさんの命が失われています。今、私たちに必要なことは、『愛する』ということです。さあ、あなたの右隣の人に『愛してます』と伝えてください。それが終わったら、左隣の人に、『愛してます』と伝えてください」

 JBは私にとって神様みたいなもんだから、もちろん呼びかけに従ったけれど、ちょっと照れくさかったのを覚えている。
 それと同時に、大いに感動もした。JBは60年代・70年代を通じて、アフロ・アメリカンのオピニオン・リーダーであり、メッセージ・メイカーだった人である。70歳を越えてもJBがJBであり続け、メッセージを発し続けているというのは、正直、驚きだった。伝説のJBは生きていたのだ。

 私はてっきり、このくだりはあのマント・ショーと同じように、彼がコンサートの通過儀礼として毎回のようにおこなっているのだと思っていた。でも、どうやらそういうことではなかったらしい。

 初来日以来、JBの来日公演を見続けた熱心なファンの方が、同じ日の公演を見て、次のように記している。

「曲の途中で、このようなスピーチをいれるなんてことは、まずブラウンはしたことがなかったはずだ。60年代、公民権運動が激しくなった時、ステージでゲキを飛ばしたことはあっただろう。また、誰かが亡くなりそのアーティストへトリビュートする時に、コメントをすることはあった。この日もウィルソン・ピケットやレイ・チャールズにトリビュートを捧げて、曲も歌った。そういう語りはいくらでもあった。
だが、彼が73年に初来日して以来、彼のステージを何度も見てそれを振り返ってみて、自分についてのパーソナルな思いを語ったことはなかったように思える。」
http://www.soulsearchin.com//soul-diary/archive/200603/2006_03_12.html

 JBは明らかに、あのコンサートが最後の日本公演になることを、意識していたのである。そして、日本のファンに向けて、最後のメッセージを伝えていったのだ。どうしても伝えたかったから、ショーの流れが多少悪くなっても、ステージに翻訳者を呼び寄せたりしたのである。

「あなたの隣にいる人を愛しなさい」なんて、笑っちゃうようなベタベタなメッセージではあるけれど、いわば遺言として語られた言葉だったとすれば、これは重い。大切にしていかなければならないな、と思っている。
 最初に書いたけど、JBが死んだということがどういうことなのか、未だに整理できていない。現実感もまるでない。でもみなさん、隣人を愛しましょうね。それがJBの遺志だから。


 なお、上記のブログで、JBの臨終の様子がレポートされている。リトル・リチャード、スヌープ・ドッグ、ミック・ジャガー、そしてブッシュ大統領が弔辞を捧げたそうだ。
http://blog.soulsearchin.com/archives/2006_12_27.html

2 件のコメント:

takebow さんのコメント...

待ってました。私と違ってJBファンの 1TRAさんの文章が読めて嬉しいです。mixiにご友人が書いていましたが、私もJBは死なないんじゃないか、と思ってました。ご冥福をお祈りします。  三度 合掌

1TRA さんのコメント...

takebow師匠、書き込みありがとうございます。本文にも書きましたが、JBの死はあまりに唐突で、正直なところ、死んだという実感がわかないのです。