2007年6月1日

獲物を前によだれをたらす「知の巨人」

 立花隆。「知の巨人」の異名をとる男であり、その膨大な知識と深い思索は、誰もが敬服せずにはいられないだろう。私は彼の仕事のほんの一部をかじった程度だが、原発、脳死、サル学に関する論考はおもしろかったし、インターネット黎明期にテレビに出演し、「SEXって入れるだけでこんなに情報が出てくるんですよぉー」と語っている姿も印象深かった。そうそう、映画『地獄の黙示録』の気合いの入った評論も、大いに感服したものである。

 でも、私にとっての立花隆は、やっぱり『田中角栄研究』であり、『巨悪VS言論』なのである。とくに、田中角栄失脚の引き金となった前者は、ジャーナリスト立花隆の出世作であり、若さあふれる情熱が行間にほとばしっていて小気味がいい。ここに書かれた情報は今となってはすべてが周知の事実だったりするのだが、小さなネズミが巨大な象の足に噛みついて、急所を着実に突き、やがて倒してしまうような、そんなダイナミズムがあって、読まされてしまうのである。


 立花隆の政治評論には、確固とした方向性がある。これはあくまで一読者としての感想にすぎないのだけれど、この人、「巨悪」に「言論」で立ち向かっていって、それで社会をよくしようとか、政治腐敗をなくそうとか、そんなことはまるで考えていないのだ。「巨悪」が秘して決して表に出さない秘密を探る、そのこと自体に大いなる喜びを感じているのである、絶対に。

 小泉政権時代、立花隆の政治評論ははっきり言って、つまらなかった。なぜなら、小泉という男は基本的に、クリーンなやつだったからである。郵政選挙や靖国参拝にたいする批判も、長期政権を維持していることに関する論考も、イマイチ切れ味が鈍かったのは、小泉が立花隆の敵になるキャラクターじゃなかったからだ。立花隆がイキイキするのは、権力を傘に着て、ウラで汚え金儲けをやってるような、そんな政治家なのである。そういう政治家を前にしたとき、立花隆の目はらんらんと輝きはじめるのだ(見たわけじゃないけどさ)。

 その立花隆が、久々に目を輝かせている。例の、松岡利勝前農林水産大臣の自殺である。
 現職の大臣が、なぜ死ななければならなかったのか。例の「ナントカ還元水」程度の話じゃないぞ、とは誰もが思うことだろう。「緑資源機構」の談合事件で受け取った献金も数百万円というし、死ぬほどのことじゃない。じゃあ、何があったんだ、と立花隆は追いつめていく。
 それがこのコラムである。
 
 このコラム、私は以前から愛読してたんだけど、更新は基本的に週イチ・ペースだった。
 ところが、松岡が死んで以降、立花隆はこのコラムを毎日更新しているのである。むろん、題材は松岡の自殺の原因とその背後にある(だろう)汚職収賄事件。立花の論拠は今のところまだ弱いと思うけれど、彼はその尻尾をつかもうと着々と論を重ねている。「知の巨人」と呼ばれる男が、久々においしい獲物を見つけたのだ。獲物を前に喜々としているさまが伝わってきて、(人が3人も自殺しているのに不謹慎ではあるけれど)こっちまで嬉しくなってくる。

 政治っておもしれえなあ、と思わせてくれたのも、そういえばこの人だったかもしれないなあ。

8 件のコメント:

ケズル子 さんのコメント...

現役大臣の自殺がショッキングだったからか、はたまた松岡さんが熊本の人だったからか自分でもわかりませんが、私も興味深く成り行きを見守っています。
立花隆のコラム、私も読んでます。ハラハラドキドキワクワクします。昨日付で更新された核心に迫る内容は、ほんとにおもしろかった!
まるで水を得た魚のようにイキイキとし、巨悪のどす黒い部分にじりじりと迫っていってますね。
最近選挙をサボっていた私ですが、夏の参院選は必ず投票しに行こうと決意しました。

takebow さんのコメント...

「雫。雫がそうしたいんならお父さんはそれでいい」(by耳をすませば)と言う感じでしょうか?すみません、ゴミコメントです。

1TRA さんのコメント...

●ケズルちゃん
書き込みありがとう。そうか、松岡さんは地元の人ですか。すると、立花隆のコラムで出てきた地名なんかも、かなりリアルに想像できるわけね。ちとうらやましいような。
選挙に行く決意、立派です。「あなたのコラムで選挙に行くことを決めました」と言ったら、立花隆はきっと喜ぶと思うよ。私は直接関係ないのだがとてもうれしい。

●takebow師匠
すんません師匠、小生「耳をすませば」を見てないので、ツッコミようがねえです……

takebow さんのコメント...

そうでしたか。ジブリ作品「耳をすませば」の主人公雫のお父さんの声は、何と立花隆氏その人が声を出しているのです。

1TRA さんのコメント...

なるほど、そういうことでしたか。そういえばそんな話をどこかで聞いたことがあったような。納得いたしました。

takebow さんのコメント...

まじめコメントとしては、立花隆の東大でのゼミに注目しています。後継者を育てるという意味でも、たいへん意味のあることだと思います。

1TRA さんのコメント...

恥ずかしながらそんなことをやってるとは知りませんでした。週刊誌で鍛えた立花隆の取材方法、実際にはかなりの人員が必要という話です。ネットの普及によって、私自身もふくめて地道な取材というのは難しくなっていますが、田中金脈追及のような作業には地道さが必要不可欠な筈。後進が育って欲しいものですね。

匿名 さんのコメント...

now I stay in touch..